一昔前は、「フィクション」というと、小説が真っ先にきて、その次に映画とかだったのかもしれないけれども、今はそうではない。多くの人が、フィクションの第一選択として、漫画やアニメを挙げるようになってきているのだ。
だから、「どんなフィクションが好きですか?」と聞く時に、補って、「漫画とか、アニメとか、小説とか、映画とか」と聞く。すると、ほぼ8割から9割、漫画かアニメの作品名が返ってくる。小説や映画は少数派だ。
フィクションと言うと、漫画やアニメが中心である。これが、現在の日本の、小学校から30代くらいまでの方の、等身大の心象風景なのだと思う。そして、そのことがフラットに事実としてあって、そこに、価値観からの評価はない。
今や、小説や映画、特に小説は、「マイナー」な分野なのだということを実感する。私自身は、フィクションでは圧倒的に小説や映画に接している時間が多いが、今や少数派なんだということを認識させられる。
さらに面白いのは、小学生、中学生、高校生あたりが挙げるアニメや漫画の作品名が、聞いたことがないものが多いことで、世界が完全に分裂してしまっていることを実感する。メジャーになった作品は、彼らの宇宙の一部でしかないのだ。
大人が、子どもたちと向き合う時に、「名作を読もう」ということで漱石や太宰を挙げるのはもちろんいいと思うのだけれども、それと少なくとも同等の時間をつかって、彼らの世界で流行っている作品を教えてもらわないと、対称性が失われる。
もちろん、子どもたちだって、昔からの名作を読んだ方がいいけど、大人たちも、子どもたちの世界で流行っていることに関心をもった方が、世界が広がると思う。フィクションの第一選択は、今やアニメや漫画だということを、肝に銘じなければならない。』