なぜ、笑いをベースとする落語に、人情噺というジャンルがあるのか。笑いが、人生の真実をかいま見させる触媒の作用を持つからだろう。人生を真実を見せてからの感動だからこそ、感動が深い。
人情噺は、多くは、生活に困ったり、人生の悲劇に見舞われたりといったストーリーを持っている。これらのできごとは私たちを不安にさせる。不安の中にいるままでは、目が曇って人生の真実に至ることができない。
もっとも厳しい、悲劇的な状況でも、笑いを「くすぐり」として混ぜることで、聴くものの心はリラックスして、緊張することなくそこに現れる人生の真実と向き合うことができる。そこに、ストンと、人情噺ならではのハッピーエンドが入り込む。
笑いの本質はメタ認知であり、人情噺は、人生の厳しさや悲劇を「外」から見る視点を与えることで、かえって人の心の温かさをしんみりと感じさせることができる。その意味で、人情噺は落語の精華であり、昨日は談笑師匠がそれを見せてくださった。』