ニコロビンプレゼンツ茂木健一郎さんからのマーモセット小説『
「破門された?!」
ジャックは、トムの口から出た言葉をそのまま繰り返した。
「破門」という音に、ある種の禍々しさを感じたのである。
トムは、屈託を感じさせない笑顔を保ったままだ。
「ええ。教義上の些細なことで、教授と対立してしまって。」
ジャックの顔には、戸惑いが素直に表れていたのかもしれない。
トムの口元に、再び、悪戯っぽい表情が浮かんだ。
「ええ、わかります。思っていらっしゃるんですよね。現代に、そんな、神学上のことで破門にするような、そんな学校があるとは信じられないと。」
ジャックはうまく目を逸らしたつもりだったが、トムの顔には、笑いがこぼれた。
「自然神学というのですが、啓示に頼らず、自分たちで神の意味を考える学問があるのです。そして、どうも、私の考えていることは、学校側から見ると、異端なようなのです。私としては、画期的な理論のつもりなのですが。」
ジャックは、陽光が降り注ぐニューヨーク公立図書館前の風景と、トムの口から出てくる言葉が、あまりにも不調和な気がして、目をパチパチさせた。
「あなたは、無神論者ですか?」
トムの質問に、ジャックは、なぜか赤面した。
ジャックの脳裏に、敬虔なカトリック教徒だった母といっしょに通った教会のイメージがフラッシュバックした。
「いいえ……その、なんというか。」
ジャックは、トムに対しては、正直に言うしかないのだろうと思った。
「実は……神のことなど、もう長い間、考えたことがなかったものですから。」
つづく。
「オデュッセイア」これまでの連載。 』