講談社社内で、共同通信社の文化部の記者の川元康彦さんが『東京藝大物語』についてインタビューをしてくださった。手元に詳細なメモを持って、きわめて鋭い質問を投げかけてくる。作者である私でさえ意識化できていない作品の機微にかかわる問いかけに、すごいと、担当編集の柴崎さんも感心していた。
インタビューが一段落して、少し雑談みたいな感じになった。川元さんは共同通信に入って以来、地方を10年くらい回っていて、5月に東京に来て文化部に配属になったばかりで、インタビューをするのは初めてなのだという。「えっ!」と柴崎さんと二人で驚いていると、さらに驚くことを言った。
「東京に来る前は、博多でして」と川元さん。「サツタン」(警察担当)で、夜討ち朝駆けをしていた。「裏をとってあてる」のが「サツタン」のやり方。文化部に配属されて初めてのインタビューをどうしたらいいかわからないから、『東京藝大物語』について、「裏をとってあてる」を実践したのだという。
「そうだったのか!」と柴崎さんと私は、烈しく動揺して、また感動した。「サツタン」をやっているから、こんなに鋭い質問力が育まれたのかっ! 私は、『罪と罰』でラスコーリニコフを追い詰める刑事みたいですね、と言った。名前忘れてたけど、今調べてみたらポルフィーリで、予審判事だった。