映画『第9地区』は傑作である。南アフリカ共和国でかつて行われていた「アパルトヘイト」(人種隔離政策)を背景とした作品。地球にやってきた宇宙人が、居住区を隔離され、強制的に移住されるなどの不当な扱いを受けている。その取り締まりをやる男が、次第に「向こう側」になっていく過程を描く。
『第9地区』の宇宙人は、甲殻類の外見をしていて、蔑称で「エビ」などと言われている。私たち人間は、外見が異なる対象、特に、たとえばエビのような格好をしている生きものに対して、差別的な扱いをしても、何となく納得してしまうという「弱さ」を持っている。『第9地区』の設定は、そこを衝く。
現代において、肌の色や、外見の特徴で人を差別することは、受け入れられない。国籍や人種で差別をすることも、受け入れられない。差別主義者がいるとしたら、それは前時代の遺物であろう。ところが、『第9地区』のエビのような異星人のように、強烈に異なる外見を持っていると、つい差別してしまう。
『指輪物語』や、『ホビット』、『ハリーポッター』などのファンタジー映画でも、敵側は、それらしい(たとえばゾンビのような)外見を持っている。一方、正義の味方は、それらしい(若くて美しいといった)外見を持っている。このため、闘いの場面で、私たちは敵側がやられることを受け入れてしまう。
外見で差別を肯定してしまう、という私たち人間の弱さは、困ったものだと思う。『アパルトヘイト』が言語道断なのは言うまでもないが、『第9地区』のように、相手がエビに似た異形だと、つい差別を肯定してしまう、という弱さを含めたエンタティンメント映画ができるほど、文明は成熟している。
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