ニコロビンプレゼンツ茂木健一郎さんのスーパーマーモセット小説『
カフェの木製のロング・テーブルに腰掛けると、ジャックはすぐに仕事に没頭し始めた。今朝、フェリーの上で読んだ、犬の格好をして生活している男のニュースを元に、短いエッセイを書き上げようとしていたのだ。メタファーの鎖を通して、シャーロック・ホームズにも言及する予定だった。
エッセイのタイトルは、「マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ」。
ブロガーとしては、ジャックはなかなかのものだった。この街で起こったさまざまな奇妙なことを、少し脚色して伝える文章が人気で、多くのアクセスを稼いでいた。
しかし、「ブロガー」しての収入は、アパートメントの家賃を払うにはとても足りない。時には、伝統的メディアの記事を書いたり、企画を立てたりしなければならない。
ジャックの最終的な野心は、小説家になることだった。この街は、数々の物語を生んできた坩堝だ。一方、たくさんの紙くずが、路上に投げ捨てられ、踏みつけられ、誰にも知られることなく消えてきたことも、ジャックはわかっていた。
しかし、ジャックは、自分の名前が、いつか、フィッツジェラルドやカーヴァーと並ぶことを、諦めているわけではない。
ジャックは、夢を食べて生きている動物だった。そして、その生存のためには、シャーリーのような人物に頼らなければならなかった。『ニューヨーカー』で連載を持っているような、確立された文筆家とは、自分は違うのだ。』