開始が、13時と、微妙な時間だったのである。しかも、その場所は、お昼においしいカレーを出すことで知られるホテルのラウンジ。編集者と出版プロデューサーが、私とそのカレーを食べるつもりでいらした、ということを、一瞬にして悟った
その間、2秒くらいだったろうか。脳裏を思考が走った。もし、私が食べる、と言わない限り、著者を差し置いて編集者と出版プロデューサーがごはんを食べようとはなさらないだろう。すると、お二人は、空きっ腹にコーヒーということになる。
空きっ腹にコーヒー! この世に、これほどつらいことがあるだろうか。しかも、二人の頭の中には、すでに、このホテルの名物であるおいしいカレーが匂いを立てて置かれているイメージがあるはずなのだ。ところが、私がカレーを食べないと、彼らも食べられない!
「いただきましょう!」と私は2秒後に言っていた。「カレー、食べましょう!」。編集者と出版プロデューサーの顔に、ちょっと安堵したような表情が浮かんだ。そして、私たちはみんなでカレーを食べたのである。私にとっては、二度目の昼食を。
思い返すと、小学校6年生の頃の私は家でカレーをつくると張り切って、なみなみとよそったやつを平気で3杯や4杯は食べて、祖父が目を白黒とさせていて、成長期の私はそれが自慢だった。祖父は、それから2年くらいで亡くなってしまった。
あの頃のことを思えば、ジャージャー麺を食べたあとに、カレーを食べるなど、どれほどのことでもない。このような時に、ダイエットがどうのとか、健康がどうのとか、そういうことは一時的に関係ないと思う。
この二度ランチの後遺症か、夕方、仕事の合間に街を歩いていたとき、私は、そうだ、品目断食をしよう、何も食べないというのは何だから、たとえば、体重を2キロ減らすまで、牛丼は食べないとか、そういう好物断ちをしたらどうかと思いついたのだった。』