さまざまな日程のほとんどがキャンセルになり、ふだんならば週に1,2度はどこかに出かけるのに、ずっと東京にいた。ようやく羽田から飛行機に乗ったのは、震災から3週間くらい経った時だったと記憶する。
向かったのは、山口県だった。3週間ぶりに、講演の仕事があったのである。飛行場に着いて、山間の温泉地を歩いていると、平穏で、ゆったりとした時間が流れていて、それまでの緊張感が、ふわっと消えていくような、そんな充たされる思いがあった。
東北から東京にかけては、まだまだ緊張と不安の日々が続いていたが、同じ日本の西に、ニュースなどを通して心配はしてくださっているものの、平穏な日常が息づいていることに、「ああ、助かった」という思いがあったのである。
世界は多様で、平行していていいのだと思う。遠くの被災の方々に思いを馳せることと、自分たちの日常を大切にすることは、両立してよい。あの時、山口の山間の温泉地を歩いてほっとした気持ちを、今朝、久しぶりに思い出した。』