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朝からメッセージ

f:id:barussnn127:20151015071324j:imageニコロビンプレゼンツ茂木健一郎さんからのメッセージ『小林秀雄の声を聴く、といっても、ただ、物理的に彼の音声を聞けばいい、というわけではなくて、世界に対するある向き合い方、感じ方に寄り添わなければ、ほんとうには小林秀雄の声は聴けない。「僕は無知だから反省なぞしない。利口な奴はたんと反省してみるがいいぢゃないか」という言葉もそうだ。
小林秀雄五味康祐と対談した「音楽談義」(音楽について)は、新潮社からCDがかたちを変えて出ているはずだが、もともとは鎌倉の中華料理屋でやったやつだという。音をきくと、くちゃくちゃと食べたり、酒を呑んだりする音も聞こえて、そんな日常の雑音の中に、プラトン的世界が見える。
この対談の中で、小林秀雄はいろいろなことを言っているのだが、ぼくがいちばん感動したのは、バイロイトの感想だった。小林秀雄は、「あんないいものはないなあ」と言ったあとで、こう言っているのである。「ジークフリートは、死なないんだからねえ。」この一言を聞いたとき、ぼくは震撼した。
ジークフリートは、死なないんだからねえ。」小林秀雄のこの言葉は、表面上はおかしい。ジークフリートは、死ぬ。『神々の黄昏』の中で、ブリュンヒルデを裏切り、その復讐を誓ったハーゲンによって、唯一の急所である背中を槍でさされて死ぬ。それなのに「死なないんだからねえ」とは何事か。
ジークフリートはもともと恐れを知らない。死ぬことすら恐れない。それが、ハーゲンの盛った毒薬で一時的に普通の人になっている。再び毒薬を盛られたジークフリートは、すべてを思い出して、ブリュンヒルデへの愛を歌う。その最中に、ハーゲンの槍が襲う。
つまり、「ジークフリートは、死なないんだからねえ。」というのは、恐れを知らない、つまりは自分というものについてのメタ認知を持たないジークフリートにとって、死というものは存在しないんだ、という小林秀雄の慧眼だ。
ジークフリートは、ハーゲンに槍で刺されて、致命傷を負い、血を流して倒れながらも、それに気づかずに、炎につつまれた岩山にブリュンヒルデを見出したときの感動を歌い続ける。つまり、ジークフリートは死なない。そのまま事切れるが、彼は死なない。そのことを小林秀雄は言っている。
小林秀雄が、五味康祐を相手に、鎌倉の中華料理屋で、すっかり酔っ払って、録音している、ということすらもおそらくは忘れちまって、そのあげくに、「ジークフリートは、死なないんだからねえ。」と言っている。それだけでぼくは、十分だと思う。』後白河天皇さん行かぬ