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朝からメッセージ

f:id:barussnn127:20150515065014j:imageニコ・ロビンプレゼンツ茂木健一郎さんからのメッセージ『
フレッドおじさん

人間の記憶というのはふしぎなもので、今朝、なんとなくフレッドおじさんのことを思い出していた。といっても私にフレッドというおじがいるのではなく、ハインリッヒ・ベルの短編Mein Onkel Fredのことである。教養のドイツ語でこれをよんで、とてもおもしろかった記憶がある。

ベルは戦後のドイツを代表する作家のひとりだが、Mein Onkel Fred(フレッドおじさん)は終戦後すぐのドイツを描いていて、フレッドおじさんが戦場から帰ってきて、これから大いに経済的大黒柱になってくれる、と期待していたら、何もしないで毎日寝てばかりいる、という話だった。

家にお金がなくて、働き手の大人として、なにかやってほしいのに、フレッドおじさんは毎日ソファにねころがって何もしない。それでも、本人は、慌てる様子もない。いったい、どうなってしまうのだろうと読者もやきもきするが、ある日、フレッドおじさんは突然むくっと起き上がる。

そして、今までねころがってばかりいたフレッドおじさんは、商売を始めるのである。たしか花を買ったり売ったりするんじゃなかったか。それが大当たりして、たちまちフレッドおじさんは裕福になり、一家も経済的に助かって、めでたし、めでたし、という話だった。

この話が面白いな、と思ったのは、物語の前半ではフレッドおじさんはねころがってばかりいて何もしない、ところが後半では突然起き上がっていろいろな活動を始める、というコントラストで、静から動、人間というのはそういうものだという作者の洞察、叡智にしびれたのかもしれない

以来、人生で休んでいる、というか、特に何もしないでねころがっている(ぶらぶらしている)人を見ると、この人はきっとフレッドおじさんなんだ、と思うようになった。なんかのきっかけで、突然起き上がってばーっと活動を始めるんじゃないか。そんなふうに、人間を見るようになった。

ハインリッヒ・ベルはノーベル文学賞を受けた人で、長編も読んでみたいが、今のところ『フレッドおじさん』しか読んでいない。おそらく、この短い寓話は、レフ・トルストイで言えば『イワンの馬鹿』に相当するもので、楽観的で、一見ナイーヴな子どもらしい設定の中に、鋭く真実を描いている。

「フレッドおじさん」を読んだのは19歳の時だから、33年後にこうやって思い出しているわけで、あの短編を読ませたドイツ語教師の思いは、今頃効いている。教育の成果というものはそういうもので、簡単にこれだけ教育したからこれだけ効果がある、という「成果主義」で測れるものでは決してない。』