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朝からメッセージ

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ニコ・ロビンプレゼンツ茂木健一郎さんからのメッセージ‼️『
歩いて、二分咲きの桜を見て、ほっとして、それで、大学時代の友人の一言を、なんとはなしに思い出していた。松尾くんだ。

松尾くんとぼくは、理科一類12Bで一緒で、ぼくは理学部物理学科に進学し、松尾くんは確か電気電子に進んだ。3年になってしばらく経った頃、確か安田講堂の横で、松尾くんに出会った。しばらく立ち話をしている中で、松尾くんが、ぼくの記憶に長く残る言葉を発した。

松尾くんは、「ぼくは、やらなくちゃいけない面倒なことは、なるべく早く、前倒しでやるようにしている」と言ったのだ。その時の彼の表情は、若き哲学者のようだった。ぼくは、そういう思想には初めて触れたような気がして、その生真面目な精神がちょっとまぶしいように感じられた。

それまでぼくは、どちらかというと「創造的引き伸ばし」の友人に囲まれていて、締め切りぎりぎりに七転八倒してやるのが美学だ、みたいな感じの言葉ばかり聞いていた。松尾くんの、「面倒なことは、さっさと前にやってしまう」という考え方は、不良小学生が、修身の先生に出会ったような衝撃だった。

それから時が流れ、世には相変わらず「創造的引き伸ばし」の人がいて、編集者が言う、この先生は何日も通ってお酒につきあってそれでも校了期限ぎりぎりになって、入稿即校了なんだ、みたいな話をそれもひとつの味だな、と思いつつ、一方で松尾くんのキリリとした哲学も、真実だなと思うようになった。

いつも締め切りに追われていると、なんとはなしに心が落ち着かない。やさぐれた気持ちになる。一方、前倒しで、さっさと、余裕を持ってやっていると、世界が広々と見えてくる。何よりも、追われているというよりは、自分が攻めているという感覚が、上半身をすっくりと起こしていってくれるように思う。

ここで肝心なのは、「締め切り」は外から与えられるものだけでなく、中長期的に自分がやらなくてはならないものも含まれるということだ。つまり、やるべきことを認識するには、それなりの読解力と推理力がいる。自分の5年後、10年後のためにやるべきことを前倒しでやれたら、最高であろう。

それにしても、人間の記憶というものは不思議で、20歳の春に松尾くんと立ち話したことが、こうやって印象に残っている。松尾くんはもうそんなこと忘れているだろうが。人の話で強い印象に残っていることは、話した本人はたいてい忘れている。無意識からのかけ流しが、他人に届くのであろう。』