コンチネンタル・ブレックファーストというのは、パンとコーヒーだけなのだということを聞いたのは、中学生の時だったろうか。えーっ、そんなの、もの足りない! 質素過ぎる! と感じた。朝、パンを食べて、コーヒーを飲むだけなんて、もっと何か食べたい! と思ったのである。
コンチネンタル・ブレックファーストよりも、卵やベーコンなどがついたイギリス、ないしはアメリカの朝ごはんの方が絶対にいい! と思っていた人生だった。30歳の時に、フランスのニームに学会に行った。「デニム」というのは「ニームの」という意味だそうである。街中に古代ローマの遺跡があった。
ニームのホテルで、朝、クロワッサンとカフェオレが出た。カフェオレは、コーヒーとミルクが別々に出てきて、自分で混ぜる。驚愕した。クロワッサンのうまさ! コーヒーのほろ苦さとミルクのまろやかさが混ざったカフェの味わい。この二つが、宇宙であった。他に、何も、要らなかった。
パンを吟味し、コーヒーを厳選し、そうしたら、もう他には何も要らない。それがコンチネンタル・ブレックファーストの本来だということを、その朝知った。ニームの街に出たら、朝日がまろやかに輝いていた。人生って、知らないことがたくさんあるな。そんなことを思った、30歳の春であった。』